蝦夷鹿猟では、1日に何頭も解体したり、大きく皮の厚い雄を解体することがあります。
そのため、使いやすいナイフも重要です。
個々人使いやすいナイフは違います、ここでは私の使っているナイフについて説明します。
解体作業は大きく分けて放血、内臓摘出、剥皮、分割です。
それぞれの作業における条件としては、
1.放血 刃渡り10cmは欲しい
2.内臓摘出 長すぎると使いにくい
3.剥皮 ドロップポイント(刃が湾曲し先端が少し下がった形)かつ厚すぎない
4.分割 骨から肉を切り離しやすい
といったところです。
この条件をほぼ網羅しているナイフとして、G.SAKAIのサビナイフ8 マキリがあります。
ブラックは
amazon、イエローは
楽天が安いようです。波刃モデルもあるのでご注意。
刃渡り13cm、刃厚2.5mmの錆びにくいH-1鋼製のナイフです。
鋼(はがね)は硬く研ぎやすいのですが、刃先が錆びると大きな刃こぼれの原因になるため、雨や雪の中でも使用する狩猟用ナイフとしてはステンレスがおすすめです。
※H-1鋼は生産が終了してしまい、現在生産されているのはローカーボンステンレス製ですが、H-1鋼の在庫もまだありそうです。
マキリは古来から日本の猟師が使用している短刀で、アイヌでは汎用短刀をマキリと呼んでおり、ストーリーも蝦夷鹿猟にぴったりです。
現在1.放血、2.内臓摘出、3.剥皮をこの1本で行っています。
4.分割で使っているのはビクトリノックスの骨スキ丸。
amazonが安いです。
骨から肉を切り離すための包丁なので、分割に最適です。食用の肉の切り出しは、皮(外側)や内臓に触れるナイフと分けたいという気持ちもあって分けています。あまり意味ないかもですけど、気持ち的に。
難点はシースがないため、別途用意する必要があることです。
さて、ナイフそのものを紹介しましたが、使うにあたって研ぎが重要です。
初心者の頃、切れる刃は角度は薄く、番手の高い砥石で研いで、皮砥で仕上げた剃刀のような刃と思っていました。
これは大きな間違いで、用途に合った刃をつけることが重要です。
ナイフを研ぐのは根気が必要な作業ですが、あまり集中力を必要とせず楽に研げ、かつ実用性の高い方法を紹介します。
まず、刃を整える
ナイフの研ぎには砥石はシャプトンの刃の黒幕#1000、一定の角度を保てるガイドのスーパートゲールを使います。
刃の黒幕#1000も
スーパートゲールも送料含めるとamazonが安い。
切れる刃をつけるには一定の角度を保つ必要がありますが、ランスキーのシャープナーなどいろいろ試した結果、研磨力の強いシャプトンの刃の黒幕とシンプルながら、しっかりと角度を維持できるスーパートゲールの組み合わせが最も早く作業できるという結論になりました。
シャプトンの刃の黒幕#1000は中砥でありながらよく削れるので、作業が短時間で終わります。
ただ、注意点としては減りも速いので、こまめな砥石を平らにする面直しが必要です。
面直し砥石では慣れないと片減りして余計に平らにできなくなることもあるため、
ダイヤモンド砥石を使うと良いです。
面直しをする砥石に鉛筆などで線を引き、線がすべて消えるまでダイヤモンド砥石で研げば平らな面ができます。
さて、面が整った刃の黒幕#1000が用意できたら、ナイフにスーパートゲールをセットして研いでいきます。右利きの場合、持って右側の面から研ぎ始めます。全体に均一にカエリが出るまで研げたら反対側も均一にカエリが出るまで研ぎます。最後右側の面を5回ほど研いでカエリを取ります。
刃の黒幕#1000で研ぎ終わった状態
刃をつける部分をマジックなどで黒く着色すると、きちんと研げているか確認しやすいです。
これだけでも十分切れる刃はついていますし、通常使う包丁などはこれだけでも使えますが、解体に使うとすぐに切れなくなってしまいます。
理由のひとつは刃先(エッジ)が薄く弱いこと。
トゲールを使った角度では刃先が薄くペラペラで刃こぼれしやすく、毛や皮を切るとすぐに使えなくなってしまいます。
もうひとつは刃の粗さ。
刃物の刃を顕微鏡で見ると、鋸のようにギザギザがあります。
柳葉包丁の刃先(顕微鏡写真)
鋸の刃が用途に合わせてピッチが異なるようにナイフの刃も用途に合わせたギザギザをつける必要があります。
水分が多くやわらかい刺身を切る柳葉包丁などでは、このギザギザが細かい方がよいのですが、鹿肉の場合ギザギザが細かいと脂がすぐにギザギザを埋めてしまい切れなくなってしまいます。
そこで「糸刃」を引き、刃先の強度とギザギザをコントロールします。
糸刃を引くというのは、目に見えない程度の幅で鈍角の刃をつけること。
鈍角というと切れないイメージがありますが、糸刃の鈍角は切れ味に全く影響はありません。
糸刃をつける前(顕微鏡写真)
糸刃をつけた後(顕微鏡写真)
糸刃の引き方はナイフの角度を40度ほどにして5回ほど研ぐだけ。
私は用途に合わせてマキリは荒砥、骨スキ丸は中砥で糸刃を引いています。
また、どんなに完璧に研いでも1体の解体中2~3回は切れなくなりタッチアップ(目立て)することになるのですが、このタッチアップは糸刃を引く時と全く同じ作業を行います。このタッチアップを行うと、目詰まりした脂を除去しながら刃先のギザギザを復活させることができ、切れ味が復活します。
ただ、猟場に砥石を持っていくわけにはいきませんので、糸刃引きとタッチアップにはSHARPALのダイヤモンドシャープナーを使っています。
amazonで買えます。
研ぐ部分が平坦なため、砥石と同じ作業が可能で、柄にはオレンジのパラコードが巻いていあるので無くしにくいのもポイント。そしてかっこいい。好き。
ナイフについてはいろいろ好みや意見が分かれると思います。そして研ぎは本当に奥が深く私もまだ最適解に辿り着いていません。
みなさんも、「こんな刃はどうなのか」→「試しに研いでみる」→「顕微鏡で確認して試し切り」→「切れ味と刃の状態を踏まえて調整」というナイフのPDCAを回してみませんか。